フラノの日記その4 森の猫屋敷の賢者様


 ソウルがブルーフレア→グロウファイターになったフラノです。なし崩しに旅立ってから、はや一ヶ月。ちまちまと仕事をこなしている内に、ギルドの職員や宿のおじさまに顔を覚えてもらえるくらいになりました。カリスマフリーターとして有名になるのって正直どうかと思うけど、悪い気はしないわね。
 お兄様探しの方も、ちょっぴり進展があったの。エンシャントからウルカーンに荷物を届ける依頼をうけて、移動する途中のこと。気に入った人にしか顔を見せないって有名な、迷いの森の賢者様と遭遇したの。……思い出すのも馬鹿馬鹿しいシチュエーションだったのだけどね。
 ウルカーンに続く街道を歩いている最中、いきなりセラが物陰に隠れて「待て、向こうから強い力を感じる」とか言い出したのよ。で、見てみたら、綺麗なローブの女の人が立っててね。何者かしらと伺っていたら、セラの馬鹿、いきなり刀を抜き放って襲い掛かったのよ? もう信じられないわ。貴方どこの山賊よ、と。
 そうしたら、ローブの人は転移の魔法を使っている最中だったみたいで、巻き込まれてセラと私は、迷いの森にある屋敷に飛ばされちゃったってわけ。屋敷に住んでいたのは、ローブの人とネモっていう名のブサイクな猫。ローブの方は、実は男の人で、迷いの森の賢者・オルファウスだったの。脳の足りないHG剣士が相変わらず喧嘩売ったりしたけど、オルファウスは三十枚くらい上手だからまったく意に介さず。おかげでセラ抜きで話をすすめることができてとても助かったわ。
 オルファウスのおかげで分かった事は、あの女、アーギルシャイアは破壊神の円卓騎士と呼ばれる十二の使徒の一人だってこと。その目的は、破壊神復活に必要な闇の神器の捜索だということ。今度狙っているのは『禁断の聖杯』というアイテムだろうということ。
 どうしてこんな詳しく分かるのかしらと思ったら、オルファウスの飼ってるブサ猫のネモ、彼は円卓騎士の一人『名前を知るもの』なんですって。詳しくは聞かなかったけど、オルファウスに退治されて猫の姿にされちゃってるみたいね。それにしたって、ネモって結構おせっかい焼きで話せる性格だと思うのだけど。破壊神の部下といっても、悪者とは限らないのかしら。よく分かんないわ。どうやら闇の神器は円卓騎士一人がひとつずつ持っていたものみたい。ネモの持っていたものが『禁断の聖杯』で、それは今、ゴブリンに盗られちゃって、エンシャントにあるんだって。なるほど、もともと所持品だったなら、詳しいのも頷けるわ。
 とにかく、目的の一つは出来たわね。お兄様は神器を守るのが使命だと思ってるのだから、やみくもに探すよりは神器を追ったほうがいいかもしれないわ。なんかアーギルシャイアに因縁があるっぽいセラも、『禁断の聖杯』を追う気マンマンみたいだし。せいぜい頑張ってよね、貴方戦力にしかならないんだから。
 親切にいろいろ教えてくれたオルファウスは、もう一個サービスしてくれたわ。彼の屋敷には転送装置がおいてあって、これを自由に使っていいって。具体的に何をするかというと、旅先で知り合った人たちを好きな時に呼び出したり、送り返したり出来るんだって。これをうまく使えば、大人数でわらわら行動しなくても、いつでもパーティーメンバーを入れ替えられるってわけ。同行してない連中も暇な冒険者だから、ほったらかしておけば勝手に腕を上げてくれるみたい。ためしにセラを武者修行にでも出してやろうかしら……だめね。あいつのつけてるソウルはSTRとVITしか上がらないマイティブロウだし。攻撃の全く当たらないパワー馬鹿に輪が掛かって帰ってくるのが目に見えてるわ。っていうか本当に見た目だけね、クールなのは……
 こうして、相棒よりずっと頼りになる協力者を得て、私たちは迷いの森を後にしたわ。このあとエンシャントで噂のゴブリンとご対面となるのだけど、それはまた次にお話することにしましょう。