真・女神転生III-NOCTURNE マニアクス:その11

 マントラ軍本営ビルを後にした俺は、ギンザのニヒロ機構へ向かうことに決めた。結果的にゴズテンノウの思惑通りになってしまうのかもしれないが、元々一人ではニヒロ機構の門をくぐることすら叶わないのだから仕方がない。マントラ軍が攻め込むのに乗じれば中に入れるのだし、氷川のとばっちりが裕子先生に及ぶのを見過ごすわけにはいかない。まあ、あの先生は望んで加担しているのだろうから俺が心配する必要は無いと思うけど……勇に恨まれそうだしな。
 ニヒロ侵攻の準備として、邪教の館で新たな仲魔と契約を結ぶ。コッパテングを材料に見覚えの成長を覚えさせたディースだ。どうも今のスタメンはボケしかいないので、突っ込み系が必要だと思い採用してみた。マント姿の物静かな淑女で、騒がしいアメノウズメとは大違い。これからの活躍に期待できる。……でも何でいつも目を閉じているんだ? 開いて見せてくれと頼んだら、ペトラアイを食らった。即石化する俺。ペトラディをかけてもらわなかったら危うく全滅するところだ。アラハバキといい、悪魔の目は怖い。あまり怒らせないようにしよう。
 ターミナルへ向かう前に野暮用も済ませておく。西館に見慣れぬ悪魔が出たという話を聞いたので、これの退治である。留守にしている間に暴れられても困るしな。
 現地に向かうと、ギンザ大地下道であったように、突如異界へと引きずり込まれた。そこで待っていたのは「だいそうじょう」なる魔人。座す僧侶の姿をした髑髏顔で、見た目も大地下道のマタドールにそっくりだ。どうやらこいつらは俺の持っている燭台──メノラーを狙っているらしい。
 だいそうじょうは俺の苦手とする呪殺・破魔・精神系の魔法を唱えてくるイヤラシイ相手だった(性格もやらしい。いちいち人の後ろに回って喋られるのは非常に不快だし、要約「死んだ方がイイヨ」とか言われて非常に鬱だ)
 仲魔も精神力を吸い取られて厳しい戦いとなったが、新規参入したディースの防御魔法・テトラジャによって勝利を収めることが出来た。魔人はやはりマタドールと同じように燭台を持っており、これでメノラーは王国、永遠、基礎の3本になった。
 いい加減かさばるんだよな、コレ……こんな両手で抱えないと持ち運べないようなものを何本も持たされても困る。アマラ深界の喪服女は「メノラーが俺を導く」とか言っていたが、厄介ごとを呼び込んでいるだけじゃないのか? 文句を言いに行きたいところだ。しかし今はギンザに行くのが先決、それはニヒロの件を片付けてからにするか。


〜ギンザ→ニヒロ機構〜


 ギンザに到着した俺は、わき目も振らず南西へ。シオドメのニヒロ機構に向かう。円形のドーム状の建造物で、以前は硬く閉ざされた扉を前に引き返すしかなかったのだが、既に出入口はマントラの軍勢によって破られた後だった。やけに静かなのが嫌な予感を増大させるが、裕子先生の安全を確かめないわけには行かないので、奥へと歩を進める。
 ニヒロ機構の内部は、青白い光に照らされた無機質な空間だった。壁面も廊下も無駄の無い曲線のみで構成されていて、直線的なマントラの内装とは対照的である。あちらは武家屋敷然としたデザインだったけど、ニヒロはまるで宇宙船の中だな。不謹慎にも、個性が出ていて面白いと思ってしまう。
 あちこち歩き回ると、どの部屋も既にマントラ軍に占拠されていた。いたるところに戦闘と破壊の痕跡があり、宝箱の中身もすっかり持ち出されている。当のマントラ兵士達は「あっさり陥落したぜ」と大威張りだ。……でも、おかしいぞ。オニ達の話には肝心の氷川と先生の話は全く出てこないのだ。ニヒロ機構が敗北したというなら、二人は一体何処にいったんだ?


〜ニヒロ機構・中枢部?〜


 先生の手がかりを求めて、中枢部へとやって来た。天井が高く吹きぬけた、広々とした円形の部屋。その中心で奇妙なモニュメントが静かな駆動音を立てている。よく観察してみると、ターミナルに良く似た筒状の装置がいくつも連なって、この建物を上下に貫いているのが分かる。その表面をゆるゆる滑り落ちていく赤い光……あれは、マガツヒか? アマラ経路で見たものにそっくりだから、間違いないだろう。
 装置はマガツヒの流れに干渉しているように見える。中枢まで占拠されたというなら、何故動作が止まらないのだろう。不思議に思い、根元にある制御室らしき部屋を覗き込んだ。すると中には人影が……


 ……見間違いだ。一旦部屋を出て、もう一度入りなおす。


某記者「何だよ、お前か」


 それはこっちの台詞だ!! 人影の正体は、シブヤで別れたジャーナリスト、ヒジリのおっさんだった。何でこんなところにいるんだ。勇といい、千晶といい、お前等のフットワークはどう考えてもおかしい。 俺がどれだけ苦労して潜入できたと思っているんだ。
 あからさまに不審がっているのに気づいたのか、ヒジリは事の経緯を話し始めた。どうやらヒジリが到着した頃にタイミング良く襲撃が始まったので、その混乱に乗じて潜入したのだとか。何だその剛運。そもそもどうやって無傷でここまで辿り着いたのか問い詰めたい。
 ──そういえば、こいつはターミナルを操作するのが得意だったな。俺が二本の足でトウキョウを歩き回っている間に、ぴょんぴょんとワープしてきたと言うわけだ。なるほど。
 俺は仮にも悪魔なのに、ちっとも得をしている気がしない。何だろうこのやるせなさは。鬱だ。
 しかしヒジリは大体の事情を把握しているらしい。アテを失った今、彼の話は重要な情報源になる。色々言いたい事はあるが腹の底に収めて、俺は聞きに徹する事にした。(続)