第一話 なしくずしに旅立ち、その一

 ジルオールインフィニットを購入しました。というわけで、恒例のプレイ日記に着手します。エンディングと分岐が豊富すぎるので、初回のプレイ日記はウツダ日記よりあっさりめにいこうかと。中断も視野に入れて、まったり楽しんでくれると幸いです。


 女主人公。黒髪。質問に普通に答えたら戦士系になったので、ストイックにそっち方面で育成。まずはデータの有利不利は考えずに色々遊んでみよう。
 では、フラノの日記。はじまりはじまり〜。


 「フラノ、そっちの方を任せたぞ」


 ロイお兄様の良く通る声が、木々の間にこだまする。
 ここはミイスの森。私達の住まうミイスの村の傍らにある小さな森。薬草の群生地があり、静かで明るい美しい森だから、村人の憩いの場所でもある。……のはずだったんだけれど、最近は人々に害をなすイキモノ──いわゆる『魔物』が目撃されるとかで、村で唯一剣の覚えがあるお兄様が、薬草採りに駆りだされたというわけ。
 もっとも、お兄様はそんな雑用やってる場合じゃないと思うのだけれど。なんてったって、ミイスの村のロイは、『闇の神器』とかいう珍しいものを守る家系に生まれ、このバイアシオン大陸の各地を旅してきた無双の冒険者でもあるのだから。村人だけに留まらず、冒険者達の尊敬を一心に集めるこの自慢の兄は、品行方正、容姿端麗、それに加えて武芸の腕も立つというのだから、こんな地図にも載らない小さな村でのんびり草刈りしている姿を誰が想像できようか。まあ、ミイスの我が家にも神器があるわけだから、旅にばかり出ていられても困るかしら。お兄様が留守の間は、妹である私が留守番をするわけだし……正直、こんな辺鄙な村でのんびり過ごすなんてたまったもんじゃないわ。あ、お兄様も同じ事考えているのかしら。だめよ、一人だけ自由を満喫するなんて。可愛い妹に譲る姿勢を見せてもらわなくてはね。
 そんなことを考えながら、ゆったり時間を過ごして行く。気がつくと結構な量の薬草が手元にあった。意外と才能あるのかしらね、私。
 早速お兄様に報告すると、お兄様も充分な収穫があったみたいだった。うん、こんなものでいいんじゃない? さ、帰りましょうよ、お兄様。爽やかにはにかむお兄様の手をとって、森の出口へと足を進める。と、お兄様の手が突然びくとも動かなくなった。どうしたの?
 振り返ると、お兄様は背後の木立へと視線を向けて、険しい顔のまま立ち止まっている。何事かしら。
 お兄様の目線を追うと、木々の間から……何アレ。黒髪黒ボンテージの見るからにソッチ系な美女が練り練り近づいてくるじゃないの。なんていうか、この爽やかな森に明らかな異物。
「セラか……?」
 つぶやくお兄様。何、知り合い? やめてよ、品性を疑われるわよ。
「いや違う。女か……」
 どう見ても女なのだけど。お兄様、悪いけど目が腐ってるんじゃないかしら。
 とりあえず知り合いじゃなかったという事で、女王系女に何者かと問うお兄様。すると女は、やたら血色の悪い顔で妖艶な笑みを浮かべて「探し物をしているの」と答えたわ。
 探し物? なんのことかしらね?
 私達が困って立ち尽くしていると、女はお兄様の傍らに近づいて、「……よ」と耳打ちした。ってお兄様、見るからに顔色変わっているわよ。ははあ、心当たりあるのね。
「どう? 知らないかしら?」
「……いいえ、そんなものは知りません」
 お兄様お兄様、どー見ても挙動不審なんですけれど。知ってるけど教えませんってのがありありと態度に出てるわよ。といいますか、私にも分かっちゃったわ。きっと探し物っていうのはウチにある神器のことね? だって、うちのしょぼい村にある価値のありそうなものってソレくらいだもの。わざわざ地図にもない辺境にやってくるほかの理由なんて思い当たらないし。あらら、困ったわね。どうするのかしら、お兄様。
 ……私の憂いどおり、お姉さまな人には素通しだったみたい。向こうも向こうで「ふーん。知ってるけど知らないって言うのね。じゃあ別の手段考えるからいいわv」って感じのオーラを前面に出しながら、「そう、仕方ないわね」って身を離す。身を離すっていうか、今瞬間移動しなかった? ああ、やっぱりタダモノじゃない人なのね。お兄様、相手が悪いわ。可哀想に。お兄様の面子を立てるために、口出しはしないであげるわね。
 結局お姉さまは、私達を相手にしても意味がないと判断したのか、目の前から姿を消した。お兄様は色々思案しているようだけど、逃がしちゃった今考えても始まらないわよ。さ、帰りましょう。大丈夫、お兄様の失態は誰にも言わないから。


 その後村についた私達は自宅の神殿に戻った。神殿の主は私とロイお兄様の父、ダディアス。父だからダディアスって名前なんじゃないかしらとかんぐっちゃうようなネーミングよね。そんなお父様に出迎えられたところで、大きな地震が発生。建物が崩れるような事はなかったけど、お父様とお兄様は険しい顔。
 なんでも、バイアシオン大陸の世相が乱れたとき、神の使いである『竜王』が乱を治めるために覚醒する。その予兆として地震が起こると伝承にあるのだとか。じゃあ、今の地震もその竜王の仕業なのかしら……二人ともその真偽はわからないみたい。世の乱れといえば、平和だったはずの村に魔物が現れるのもそのひとつなわけで、お兄様はミイスの森に調査に出かけたいとお父様に申し出たわ。
「つきましては、フラノも同行させたいと思います」
 ……また? 確かに暇で暇で仕様がないから構わないけど、何でそんなに私のこと連れて行きたがるのかしら。お兄様、もしや私に実の兄妹以上の感情を抱いて……?
「フラノも神器を守る使命を負うに相応しい歳になりました。そろそろ経験を積む必要があるでしょう」
 ああ、そういう話。なんだかお兄様はやたら私に期待を抱いているみたい。何でなのかしらね。まあ、過保護で私を表に出したがらないお父様よりは御し易いからいいけれど。表に出るのは嫌いじゃないから、お兄様に同調しておくことにする。お父様、しぶしぶ承諾。大丈夫よ、どうせ私は何もしないから。お兄様、超☆強いし。


 そういうわけで、再びミイスの森にやってきた私達。すると、いるわいるわ有象無象の魔物たち。これもさっきの地震の影響? ちょっと数が多すぎないかしら。これは一端村に戻って体制を整えましょう……って、ナニコレ。透明な壁が邪魔して、森から出られないわ。
「くっ、結界? ……なるほど、罠かっ」
 お兄様の忌々しげな声に、私もはっと思い当たった。そうか、ミイスの村で武器を扱えるのは私達だけ。当然、魔物を退治に出てくるのは私達で、守るものがいなくなった神殿は手すきになる……そういうことね、お兄様? なら、早く村にもどらないと。
「この結界は、この場にいる魔物どもを片付けないと開かないようだ。手早くいくぞ!」
 はい、わかりました。でも実戦経験の少ない私にはヘヴィすぎやしないかしら。
「安心するんだ、妹よ。この兄がついている」
 発言どおり、頼りになるお兄様はほとんど一人で敵をなぎ倒して、森に再び静寂が訪れた。ああ、本当やることないわ。お兄様、その過保護で私の修行って無理よ。うん。
 と、静けさを取り戻したところに、似つかわしくない破裂音。村のほうからだわ。あれは自然に鳴るような音じゃない……見ると、そちらの方角の空に煙が立ち昇っている。
 私とお兄様は何を合図するでもなく、一緒に帰り道を駆け出した。