真・女神転生III-NOCTURNE マニアクス:その9

 わが目を疑う俺を前に、巨像は自らをマントラの長・ゴズテンノウと名乗った。俺の目はゴズテンノウの巨体に釘付けだ。あのトールがNo.2に甘んじていたというのが良く分かる。こいつをぶっ倒して言うこと聞かせようと思っていたなんて、笑い話にもなりゃしない……
 が、俺の萎縮っぷりとは裏腹に、ゴズテンノウは偉く上機嫌な様子だった。闖入者相手に成敗してくれようとか、そういった気配はまったく見せない。それどころか歓迎すると言ってのけているのである。俺は相手の真意を測れず、ただただ部屋を震わす声の中じっとしていた。
 すると奴は、俺の戦いぶりを褒め称え始めた。


「その方の戦いぶり見事であった、猛き悪魔の出現は喜ばしいことである」


 ……ビル内の事は全部見られてたのか? 屋上でバイブ・カハにやりこめられているのも目撃されてるのか? 勘弁して欲しい。あれから40体近く相手に逃げられたなんて知られてたら生きて行けないぞ。身投げでもしたくなってきた。エレベーターを降りたところに調度のいい物見台が有ったのを思い出す俺。


「というわけで褒美だ、受けとれい!」


ゴズテンノウがその手を振るう動作をすると、直後、熱っぽい感覚が俺の全身を包んだ。力が湧きあがるのを感じる。どうやら、今よりも多くの仲魔と契約できるようにしてくれたらしい。流石はマントラ軍のトップ、荒くれどもを束ねる軍団長。なんという懐の広さだろう。この世界に来て初めて、自分の行動を評価してもらえたんじゃないか? こんな些細なことでジーンとする自分が悲しい。鬱だ。そんな俺を見下ろして、奴はさらに提案を持ちかけてくる。マントラ軍の配下となればもっと力を授けてくれるとか。
 確かに魅力的ではある。でも俺は首を左右に振った。
 俺はちょっと前まで一介の高校生だったわけで、誰々に敵対するとか、トウキョウを支配するだとか、そういう物の見方は極端すぎてついていけない。イケブクロまでたどり着いたのも相当な行き当たりばったりだったのだ。ここから先、何があってもマントラに協力するなんて、口が裂けても言えるものか。……居心地はいいんだが。
 すると俺の返答に、ゴズテンノウは突如笑い出した。フハハハハ!と神像の哄笑がこだまする。な、何だ。何か琴線に触れたのか? ビクビクしてたら「底なしの欲望の持ち主め、このおちゃめさん」みたいな事を言われた。怒ってはいないらしい。というか勘違いされている。……こいつと話してると、耳が痛いし、心臓に悪い。早いところ切り上げたい気持ちで一杯になる俺。
 しかしゴズテンノウはそんな俺の願いむなしく、ニヒロに対する不満やら何やらの大演説を開始した。興に乗っている様なので、突っ込まないで放置しておく。本当にキレられたら怖いしな。じっと話を伺う振りしてぼーっと突っ立っている俺。聞けば聞くほど、ニヒロってのがよっぽど嫌われているのが分かる……そんなことを思いながら話半分にしていると、


「というわけで、ニヒロ機構に攻め入って奴らを滅ぼす。
 オマエもギンザに向かい、奴らを成敗してくるのだ!!」


 え? 俺? マントラ軍加入は断らなかったか? そんな事より勇や裕子先生の……


 と、逡巡している間に、ゴズテンノウの間から出て行かされた。あっという間。何故か知らないが、門も開かなくなっている。中の様子も伺えない。


 ……。


 結局、本来の用事を全く果たせないまま、閉め出された俺。
 鬱だ氏のう。俺の足は自然に物見台へと引き寄せられていた(続く)