ダル過卿小ネタ
“ナハトブルク伯”ダルスギル卿
アヤカシ●、ハイランダー:ハイキャッスル◎、ニューロ
「往くぞ、夜が明ける前に」
「無駄だ。これより夜が明けるまで、この地は我輩の領土となった」
「血よりも甘美な貴公の記憶(データ)、我輩の食餌となるに相応しい」
夜側の軌道を回りつづける『明けない夜の城(ナハトブルク)』の城主であり、ウェブを介してライフスティールを行うニューロヴァンプ。通称、伯爵。ライフスタイルこそニューロエイジに即したものだが、長い黒髪、血よりも紅い瞳、蒼白な肌を持ち、モノクルと黒いホンブルグ、黒の夜会服を好んで着用する古典的な吸血鬼である。
地上で活動する際には黒猫や蝙蝠のペットロイドを愛用しており、彼らはみな片目が潰れているのがトレードマークとなっている。
夜側の軌道を回りつづける、明けない夜の城。 月光に照らされた城壁(?)の表面を、ぽつんとした影が蠢いている。 黒い帽子に黒いマントの青年一人、 月夜の散歩中であるというような足取りで、 瞬かない星を背景にてくてくと。 宇宙服はもちろん生命維持装置の類もまったく身につけず、 ただ片手に、大掛かりな工具箱を携えている。 真空の無重量空間を生身で出歩くこの男。 彼こそ、この明けない夜の城の主。 ナハトブルク伯ダルスギル卿である。 さて、卿の眼前に今の所異変は見当たらぬ。 隔壁に問題が発生したと警報が出たので来て見たが、 予想していたような大きな破損はなかったらしい。 かと言っていつかの様に火星人が不時着していないとも限らないので、 伯爵は顔色一つ変えずに、くまなく異常を探して回った。 ナハトブルクの城主は、客人に寛大なのだ。 そのまましばらく。母なる地球が48分の1回転ほどした頃。 ダルスギル卿は足元の亀裂を見下ろしていた。 そこそこの大きさの何かが、 あまり早くないスピードでぶつかってできたもので、 その何かは、上手い具合に亀裂にはまり込んでいた。 跳ね返ってどこかへ飛んでいってしまわなかったのは、 偏に隔壁の耐久性に難があるせいなのだが、 住んでいるのはダルスギル一人なので、安物の粗悪品でも問題は無い。 そんなことより、何かが何であるか、である。 伯爵は無造作に両手をつっこんで、 ひとかかえもあるそれを、亀裂から引っ張り出した。 卿の腕に収まったのは、白色のカプセル状人工物。 頑丈そうで、高級そう、ご丁寧に覗き窓一つ。 伯爵は用途通りに窓を覗き込んで、中身を改める。 二秒ほど、赤い双眸が見開かれた。 伯爵は頭上(?)を仰いだ。 陽光の反射のない、真っ黒な天体──下では夜と呼んでいる──が広がっている。 さらに十分。 考えが纏まったのか伯爵は視線を戻して、 カプセルを抱えたまま、もと来た道を帰っていった。 (その後、工具箱を置き去りにしたのを思い出し、 回収のついでに隔壁の亀裂を補修する伯爵の姿があった) 「マクスウェル、そちらで手配を頼みたい品がある」 「は、どうぞ仰せ付け下さいませ」 伯爵、注文品の一覧データを送信する。 「ゼオライトと活性炭、チタンプレートですか…… これらは明日中に納入出来るでしょう。 水電解装置の部品ですな、上でも良く流通していましょうから。 ……空気循環システムを修理する気になられたのですか?」 「ああ」 「それと──人工太陽照明灯? ……あ、温室で使われるのですな。 これはメーカーに発注しなければなりませんので、 見積と納品日が分かりましたらお知らせいたします。 いやはや、お気は確かかと思いました」 「心配するな。すこぶる良好だ」 「あとは、粉ミルク100缶、紙おむ──……え?」 「どうした?」 「いや、その、これは、どういったご意向かと」 「無論、我輩が使用するのではない」 「は」 「最後の日用品は、最優先で調達するように」 「は、はぁ……承知いたしました」 「迅速な処理を期待する」
別に続きません。
アクエリオンのサントラVol.2 ダイエットな音楽を聴いてたら浮かんだ。